おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

ショートショート

僕のお腹のふくらみは

僕は中肉中背、ごく普通の体型だ。 つい先日受けた人間ドックでも何も異常はなく、きわめて健康だ。 しかし、実は今週に入ってから腹部に違和感を感じている。 ただ、実際にお腹を見ても何の変化も見られないから、勘違いの可能性は高い。 そう自分に言い聞…

スキマぼっち

僕は気づくと隙間に入っている。 とにかく狭い隙間が落ち着くんだ。 朝目覚めると、ベッドと壁の隙間にしばらくの間入る。 とても落ち着くけどそろそろ起きないと学校に遅刻してしまう。 洗面所で顔を洗った後、洗濯機と壁の間にしゃがみこんだ。 洗濯機の冷…

ラーメン戦隊

「ねえ、ちょっと君」 「え、私ですか?」 会社から帰る途中、突然男性に声を掛けられ、私は驚いて振り向いた。 「やっと見つけたよ。いったいどういうつもり?」唐突に言われ、私は混乱した。 どう考えても、この男性とは初対面だ。 「あの、誰かと間違えて…

見えてますよ!

僕は、その人が今なにを食べたいのか分かってしまう。 どうしてなのかは分からない。気づいたらそうなっていたんだ。 小さい頃、夕ご飯がカレーの日があった。 父さんは唐揚げが食べたいと思っているのに、なぜか「ちょうどカレーが食べたかったんだ」と言っ…

アク取り王子

王子は突然やって来た。 それは母さんが夕ご飯のシチューを作っている最中だった。 どこからか王子が現れて、「ちょっと失礼」というと取り出したお玉で鍋の中のアクを華麗に取り去ったのだ。 僕と母さんは声も出せずにその様子を見守っていた。 「では、ご…

犬、犬、犬

世間は空前のペットブーム。 母さんは大の犬好きで、我が家も二匹の犬がいる。 だけど、僕は犬が苦手だ。 母さんの愛情の半分以上が犬に注がれていることは確実だ。 だって、僕らの夕食よりも犬のペットフードの方が高級な時があるし、母さんの話すことと言…

シルバニアダンディー

久しぶりに高校の同級生のアキ子が遊びにやって来た。 「この部屋は変わんないわねぇ」 「でしょー」 アキ子はキョロキョロと私の部屋を見回している。 「あ、ちょっと、これどうしたの?」 「うん、そろそろ捨てようかと思って」 私はこれまで何度も捨てよ…

崖っぷちレスキュー

今日は彼と初めてのデートだ。 デートコースは俺に任せろと言ってくれたから、どこに行くのかは分からない。 だけど、きっととびきり素敵な場所に連れて行ってくれるに違いない。 なにしろ、今日は初デートなのだから。 「やあ、お待たせ」 家の前に彼の車が…

隣の歯医者さん

僕の家の隣に歯医者さんができた。 母さんは大喜びだけど、僕はその理由がよく分からない。 なぜなら母さんの歯並びは決して良くないし、虫歯になっていない歯の方が少ないくらいお口のケアには無頓着だからだ。 「ねえ、さっそく行ってみない?歯医者」 母…

つのが生えちゃった

今日は成人式だ。外はまだ真っ暗だけど、そろそろ起きて美容院に行かなくてはならない。 私は分厚いカーディガンを羽織ると、一階に降りて行った。 「あら、ちゃんと起きたのね、えらい、えらい」 母さんは、台所で父さんのお弁当を作っている。 「別に普通…

閉じない口

ある日、朝起きると私の口は、開いたまま閉じなくなっていた。 「おかあはん、ろおしよう。くちはとひはいひょー」 私はキッチンにいる母に向かって必死で訴えた。 「あんた、何言ってんの。朝からふざけてないで、さっさと朝ごはん食べなさい」 母は私のこ…

早すぎる蝉

僕の家の裏庭には、大きな木が生えている。 毎年夏になると、この大きな木は蝉だらけになる。蝉の泣き声がとにかくうるさくて、暑くても窓を開けることができない。 ミーンミーン、ジージー、聞くだけで暑さ5割増しだ。 だから、夏は一日中クーラーつけっぱ…

焼肉の日

僕の国では、一年に一度だけ焼肉の日がある。 子供の頃、僕は大人になるのが楽しみだった。 だって、焼肉の日があるのは大人だけだから。 そして、ついに今日、僕は初めての焼肉の日を迎える。 焼肉の日の一週間前に、国からハガキが届く。 ハガキには、僕が…