おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

スキマぼっち

僕は気づくと隙間に入っている。

とにかく狭い隙間が落ち着くんだ。

朝目覚めると、ベッドと壁の隙間にしばらくの間入る。

とても落ち着くけどそろそろ起きないと学校に遅刻してしまう。

洗面所で顔を洗った後、洗濯機と壁の間にしゃがみこんだ。

洗濯機の冷たさが心地よい。

「まあ、びっくりした!トシ君こんなところで何してるの?」

母さんが洗濯をしにやって来たので仕方なく立ち上がった。

朝食を食べた後、冷蔵庫と壁の間でしばらく過ごした後、玄関で下駄箱と壁の隙間を横目にしながら家を出た。

学校に行く途中、長屋が並んでいる場所がある。

長屋と長屋の間はちょうどいい隙間が空いていて、僕はついそこに吸い込まれそうになる。

だけど、友達が僕に話しかけて来るから勝手なことはできない。

僕は、楽しみは帰りにとっておくことにして、長屋の前を通り過ぎた。

学校に着き教室に入ってランドセルの中身を机の中に入れて、廊下にあるロッカーにランドセルを入れた。

廊下の端っこの掃除道具入れは壁にぴったりとくっついているから、いくら僕でも入れない。

もし隙間があったなら、かなり居心地がよさそうなのに残念だ。

休み時間になり、友達が僕のところにやってきてゲームの話を始めたけれど、僕は先生の机のうしろの段ボールのことが気になってそれどころではなかった。

段ボールには運動会で使う踊りの衣装が入っているんだけど、その段ボールと後ろの壁の間にはちょうどいい隙間があるからだ。

授業中はもちろん無理だし、休み時間でも先生がいる時は難しいから、たまたま先生がいない今はまたとないチャンスなんだけど。

低学年の頃は友達が話しかけてくるのにもおかまいなく、僕は隙間に入り込んでいたけれど、さすがにそれはマズいと高学年になった今なら分かるから、僕はこうして我慢をしている。

その分、自由になった時は隙間を求めてしまう気持ちは強くなった。

だけど、一人の時間をどういう風に使おうと誰かに迷惑をかけるわけじゃない。

「トシ君、サッカーやろうよ」

昼休み、友達が僕に声を掛けて来た。

だけど、僕の我慢はもう限界だ。

なにしろ、学校に来てから、給食が終わるまでまったく隙間に入っていないのだから。

「あ、ごめん。僕ちょっと図書室に行きたいんだ」

「ええ、そうなの?トシ君と一緒にサッカーやりたかったのにな」

「明日ならいいよ」

「しかたないなー」

僕はうっかりそんな約束をしてしまって、明日になったらきっと死ぬほど後悔するだろう。

だけど、友達の悲しそうな顔を見るのはやっぱりつらいから、僕はしばしばそんなことを言ってしまうんだ。

とにかく今日のお昼休みは図書室という天国に行くことができる。

僕は友達が運動場に行ってしまうとすぐに図書室に向かった。

図書室は隙間がいっぱいあるわけじゃないけれど、静かなのがいい。

僕は適当な本を選ぶと図書室の隅っこにある自伝の本棚の裏側に行き、壁側の本棚の隅っこの隙間にスッと入り込んだ。

そこはめったに人が来ない僕のお気に入りの場所の一つだ。

しかも、もし見つかったとしても、本を読んでいるふりをすれば変な言い訳をしなくてもすむ。

とても素晴らしく落ち着く憩いの場所だ。

しかし、お昼休みはそんなに長くはなくて僕の貴重な時間はあっという間に終わりを迎えた。

僕は本を元あった場所に戻すと、とぼとぼと教室に帰った。

午後からの授業をなんとかこなし、掃除の時間になった。

今日は外掃除で、比較的自由に動ける。

できれば下校前に一度隙間に入っておきたかった。

僕は旧校舎の外階段のところにある物置の隙間に行くことにした。

一応手にはほうきを持っているから、掃除の時間にうろうろしていても怪しまれることはない。

しかし、旧校舎に近づくと何人かの生徒がたむろして、チャンバラごっこをして遊んでいた。

僕はあきらめて帰ろうとすると、先生が通りかかって遊んでいた生徒たちはそれぞれの掃除場所に連れていかれた。

今日はとても運がいい。

僕はいそいそと物置の隙間に行くと、しばらくそこに入り込んでいた。

掃除時間の終わりを告げる校内放送が流れたので、僕はいそいで教室に帰った。

「トシ君どこにいたの?」

友達に聞かれたけど、「体育館の裏だよ」と答えた。友達は「ふうん」と言っただけで僕がいなかったことをそんなに気にしていないようだ。

「トシ君、一緒に帰ろう!」

友達に誘われ、僕は楽しみにしていた長屋の隙間を諦めなくてはならなくなった。

だけど、友達は悪気があるわけじゃない。

僕は家に帰ると、すぐ自分の部屋の勉強机と壁の隙間に入り込んだ。

ここは本当に気持ちが安らぐ。

勉強机は木でできていて、僕の部屋の壁も木だから、こういっては大げさだけど、まるで森林浴をしているような気持ちになれるからだ。

しかも、誰かが入ってくる心配もない。

ただ、あまりずっと部屋に閉じこもっていると母さんが急に入ってくるから注意が必要だ。

こんな僕だけど、もちろん友達付き合いもちゃんとしながら、これからもちょっとした隙を見つけては隙間に入り込むつもりだ。