おてんば姫の空飛ぶスカート
姫様はスカートが大嫌い。
スカートなんかをはいていたら、男の子とかけっこした時負けてしまうからだ。
そんなわけで、姫様はいつもと釣りズボンをはいている。
母君は、「女の子がズボンなんてはしたない」と言うけれど、父君は「元気でよろしい」と言って許してくれる。
ところがある日、お城に旅の商人がやってきた。
商人は異国の珍しい品物をたくさん持っていた。
皆は、初めて見る品物に目を輝かせた。
すると商人が「姫様にぴったりのスカートがありますよ」と言って、不思議な色のスカートを差し出した。
姫様が「いらない」と答えると、商人は「これは普通のスカートじゃないんですよ」とほほ笑んだ。
「なにが普通じゃないの?」姫様が尋ねると、「ほら、ご覧のとおり」と言って、スカートを空中に投げた。
するとスカートはそのまま宙を舞いフワフワと漂ったまま落ちてこない。
「まあ、どうなってるの?」驚いた姫様が尋ねると、「さあ、しくみは分かりません。
ただ、私もこんな不思議な品にお目にかかることはめったにありませんから、とても貴重なものであることに間違いございません」商人はもったいぶった様子で言った。
「ふうん」
いくら貴重なものだろうと、しょせんはスカートだ。姫様には必要ない。
「これは、ただフワフワ浮いているだけじゃないんですよ。なんと、このスカートをはけば空を飛ぶことができるんです」
商人は自信満々に言った。
「まさか」
今度は母君が言った。
「では、試しに姫様はいてごらんになりますか?」
商人は横柄な態度で言った。
「なんと無礼な!」
母君は声を荒げたけれど、「おもしろそうじゃないか」と父君は笑いながら言った。
「フランソワ、そなたは男の子に負けないのだろう?だったら、空を飛ぶことなど怖くないな?」
父君は姫様のことを試すように言った。
「も、もちろんですわ!」
姫様はムキになって答えた。
「まあ、フランソワ!」
驚く母君をしり目に、姫様はスカートをつかんだ。
着替えている間も、スカートはフワフワと浮き上がるものだから、ひっくり返らないようにするのが大変だ。
「思った通り、とてもお似合いです」
商人はうさん臭くて、どこまでが本心なのかよく分からない。
「そんなことより、どうすれば飛べるの?」
姫様の質問に、「いえ、わたくしも実際にはいたわけじゃありませんから、よく分からないんですよ。なんでも相性が良ければうまく飛べるらしいのですが」などと、いい加減な返事を返してきた。
「それじゃあ、やっぱり飛べ・・・、きゃあ」
急に姫様の体はひっくり返り、そのまま空へと舞い上がった。
「フランソワ!」母君は驚きのあまり気を失ってふらふらと倒れてしまった。
「お父様、助けて」姫様が叫ぶと、「フランソワ、もっと高く飛んで見せておくれ」などと言って取り合ってくれない。
しかし、ひっくり返ったままでは、頭に血が上ってしまう。
姫様はどうにか頭と足の位置を入れ替えようと必死になった。
でんぐり返りをする要領で体を動かしてみたら、やっと元に戻った。
すると、ようやく宙に浮いているという実感が湧いてきた。
それは、とても楽しいもので、姫様はもう少し高いところへ行ってみたいと思って、上に向けて体を動かしてみた。
すると、意外にもスムーズに体が移動し、結果的に高く飛ぶことができた。
「おお、見事じゃ、フランソワ」父君は、姫様が飛んでいるのをまるで曲芸を見ているように楽しんでいる。
心配性の母君とはえらい違いだ。
「お父様、わたくし何だか楽しくなってきましたわ」
姫様は徐々にコツをつかみ、すっかり自由に動けるようになってしまった。
「商人よ、それをもらおう」
「ははぁ、かしこまりました」
商人はホクホク顔でもみ手をした。
スカート嫌いだったはずの姫様が、その日以来毎日スカートをはいている。
もちろんそれは空飛ぶスカートだ。