シュワシュワサイダー
夏の暑い日、僕はサイダーを飲もうとして、ペットボトルのふたを開けた。
すると、飲み口からサイダーがシュワシュワと吹き出した。
僕はあわててペットボトルに口をつけると、あふれ出したサイダーをゴクゴクと飲んだ。
ゴクゴク、ゴクゴク、僕は飲み続けた。
だけど、サイダーは止まらない。
僕のお腹はもういっぱいで、どうしたってこれ以上は飲めそうにない。
溢れだしたサイダーは僕の手を伝って地面にボタボタと流れ落ちた。
ジリジリと熱い太陽に照らされて、熱々になったアスファルトにサイダーが染み込んでいく。
最初はジュッと音を立てていたけれど、しだいに冷たいサイダーで地面が冷やされて音がしなくなった。
サイダーの勢いは止まらない。
どんどん流れだして、今では小川のような流れが出来ている。
その流れはどんどん大きくなり、道路はもうサイダーでいっぱいだ。
あっちの道もこっちの道もサイダーが流れ、ついには本当の川につながってしまった。
そして、さっきまで暑くて仕方なかったのに、冷たいサイダーのおかげで、町の気温は一気に下がり、半そででは寒いくらいになってしまった。
僕はいったいどうしたらいいのかと、サイダーを持ったまま立ち尽くしていたけれど、どんどん体が冷えてくる。
ペットボトルの口を必死で押さえているのに、サイダーは一向に止まってくれない。
ふたをしようとしたけれど、サイダーの勢いで飛ばされて、そしてサイダーの川に流されてあっという間に何処かへ行ってしまった。
だけど、僕の体は寒さで悲鳴を上げている。
僕はもうどうしたらいいのか分からなくて、ついに泣き出してしまった。
すると、僕の耳に僕以外の誰かの泣き声が聞こえてきた。
その声はだんだん大きくなり、僕は、その鳴き声がサイダーの入ったペットボトルから聞こえてくるのに気がついた。
持っている手を少しずらすと、ペットボトルには顔がついていた。
それは赤ちゃんの顔だった。
僕が持っていたのはサイダーの赤ちゃんだったのだ。
そこで、僕はハッとした。
サイダーがどうして泣いているのかが分かった気がしたから。
僕は、サイダーでできた川の中を必死で走った。
僕の思っている場所に近づくにつれて、サイダーの泣き声は小さくなり、溢れ出すサイダーの量は少なくなっていった。
僕はますます自信を持って、その場所を目指した。
そしてついに、バス停の横にある自動販売機にたどり着いた。
するとペットボトルからジャージャー溢れていたサイダーはポタポタとしずくが落ちるくらいになって、泣き声も聞こえないくらい小さくなった。
だけど、まだ完全に止まってはいない。
僕は、ここで間違いないだろうとは思っていたけれど、ここで何をすればいいのかは、まだ分かっていなかった。
そこで、僕はサイダーを自動販売機に近づけてみた。
すると、ある場所でそのサイダーが完全に泣きやんだのだ。
僕はこれだ!と思って、ポケットから小銭を出すと、急いで自動販売機に入れた。
ボタンを押して取り出し口から二本のジュースを取り出した。
そして、二つのジュースにサイダーを近づけてあげると、サイダーはキャッキャと笑い出したのだ。
二つのジュースはファンダとゴーラだった。
ゴーラがお父さんでファンダがお母さんだったのだ。
泣きやんだサイダーを、僕は試しに飲んでみた。
すると、僕が飲んだ分だけ、サイダーは少なくなった。
さっきまであんなに凄い勢いで吹き出していたのに。
僕は、あのままほおっておいたら、一生サイダーを買わなくてもすんだかもしれないと、少しもったいない気持ちになった。
だけど、やっぱり、夏が寒いのは困るし、サイダーが泣いているのはいやだったから、これでよかったんだと、僕はそう思ったのだ。