おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

スイカがどんぶらこ

学校の帰り道、僕は川に大きなスイカが流れているのを見つけた。

「ねえ、スイカが流れてるよ」と僕が言うと、

「取りに行こう」と友達が言った。

だけど、その川は広くて深いから、僕も友達も結局眺めていることしかできなかった。

「あーあ、行っちゃった」

「食べたかったなー、スイカ

「食べたかったねー、スイカ

僕らは口々に言いながら、けれどもそのスイカのことはすぐに忘れてしまったんだ。

ところがそれから数日たったある日の帰り道、またその川にスイカが流れてきたんだ。

しかも、今度は一個なんかじゃなくて、ものすごい数なんだ。

「どうなってるのこれ?川がスイカでいっぱいだ」僕が言うと、「今度こそ取れるんじゃない」と友達は言った。

だけど、今日はこの間と違って、僕ら以外にもたくさんの人が川に集まっていた。

僕らが川に近づこうとすると「危ないからだめだ」と大人たちが言った。

それどころか、警察や市役所の人までやってきて大騒ぎになっている。

「どうしてスイカが流れてくるんですか?」僕らは近くにいた警察官のお兄さんに聞いてみたけれど、「それが分からないんだ。上流で何が起きているか調査しているから、君たちは早く家に帰りなさい」と言われてしまった。

僕らはもっとこの騒ぎを見ていたかったけれど、川の付近は立ち入り禁止のテープが張られてしまったので、仕方なく家に帰ることにした。

僕らはまだ知らなかったけれど、スイカが流れているのは川だけじゃなかった。

水が流れているところに次々とスイカが流れ始めているらしく、蛇口から小さなスイカが出てくるという、奇怪な現象が同時に起きていたんだ。

だから、家に帰った僕はまず慌てふためく母さんの姿を目にすることになった。

「もう、どうしようかしら」

母さんはお米を研いでいるけれど、そこに小さなスイカが次々と混ざってしまうのだ。

「うわあ、小さいスイカだ、可愛い」

僕は素直な気持ちを言っただけなのに、母さんは怒った顔で僕のことを見た。

「可愛い?この調子じゃ、夕ご飯はいつ出来上がるか分からないし、お風呂だって入れないかもしれないし、一番困るのがトイレよ!」

母さんはそう言って、ぷかぷか浮かんでいる小さなスイカをあみですくうと三角コーナーに捨てた。

「もったいない、これ僕もらっていい?」

「勝手にしなさい」

いつもは優しい母さんだけど、今日はすっかり怒りっぽくなっている。

僕はこれ以上イライラのとばっちりを受けたくなくて、小さなスイカをいくつか手に乗せると自分の部屋に戻った。

机の上に小さなスイカをのせてみた。

サイズは確かに小さいけれど、どうみても本物のスイカだ。

僕は静かに台所に入ると母さんがスイカをすくうのに躍起になって隙に果物ナイフを拝借した。

部屋に戻って小さなスイカに果物ナイフの先っちょを刺してみた。

すると、「痛っ!」という小さな声がした。

「え?」僕は首をかしげながら、今度はもっとやさしく刺してみた。

するとやっぱり「痛っ!」という声が小さなスイカから聞こえてきたのだ。

「ええーっ」僕は頭を抱えた。

そして、あらためて小さなスイカを指でつまんでみた。

すると、普通のスイカとは違ってなんだか柔らかい感触がすることに気づいた。

そうなんだ、そのスイカは果物じゃなくて、どうやら動物のようなんだ。

「わぁー」

僕は、その小さなスイカを持ったまま母さんのところへ飛んで行った。

「母さん、これ生きてるよ」

僕が言うと、母さんはさっきよりもっと怖い顔になって僕のことを睨んだ。

「もう、いい加減にしてちょうだい。母さんはこれをどうにかするだけで精一杯なんだから。ほら、じゃましないで!」

母さんは、どうにか米を研ぎ終えて、今度は料理作りに取り掛かっていた。

「ちぇっ」

僕は、こんな大発見を自分の中だけに収めておけなくて、外に飛び出した。

すると、隣の家の中学生のお兄さんが同時に飛び出してきたんだ。

お兄さんの手にも小さなスイカが乗っている。

「これ、生きてるよね!」

僕が思わず叫ぶと、お兄さんも同時に叫んだんだ。