王様のシロップ
王様は大のシロップ好き。
コーヒーに入れたり、ソーダに入れて一日に何度もシロップを楽しみます。
その香りと甘さのとりこなのです。
お城のコック長であるピエールさんは毎日シロップを使ったメニューを作るのに大忙し。
だけど、王様はもっとおいしいレシピはないのかとワガママを言うのです。
そんな王様に応えようとピエールさんは今日も朝からレシピ作りに頭を悩ませています。
「朝のレシピは何だ?」
王様はワクワクして尋ねます。
「はい、キャラメルのシロップを使ったシナモンロールラテでございます」
ピエールさんは王様のテーブルにカップを置きました。
「スパイシーな香りのシナモンと、甘いキャラメルの相性は絶妙じゃのう」
王様はこのレシピが気に入ったようだ。
ピエールさんはホッと胸をなでおろした。
しかし、ゆっくりしてはいられない。
すぐに昼食後のシロップレシピを考えなければならないからだ。
「昼のレシピは何だ?」王様に尋ねられ、「レモネードソーダでございます」とピエールさんは答えた。
「おお、わしの好物じゃ」
王様は上機嫌でレモネードソーダを飲み干した。
「夜も楽しみにしておるぞ」王様に言われ、「ははっ」ピエールさんはうやうやしく答えた。
ピエールさんは少し休憩すると、夕食の準備と夜のシロップレシピに取り掛かるのだった。
「夜のレシピは何だ?」王様の質問に「ブラックチェリーモカでございます」とピエールさんは答えた。
「ほお、このレシピは初めてじゃな」王様は嬉しそうに言うと、カップに口をつけた。
「濃厚で芳醇な香りのブラックチェリーとモカのブレンドはくせになるのぉ」王様はこのレシピも気に入ったようだ。
「明日も頼むぞ」
「ははっ」
ピエールさんの忙しい一日はようやく終わりを迎えた。
ベッドに入る前、ピエールさんはノートにいくつかのレシピを書いた。
「明日の朝はどれにしようかな」
レシピを考えるのは大変だけど、王様が喜ぶ顔を見ると次のレシピを考える意欲が湧いてくるのだ。
「今朝はチョコバニラスチーマーです」
「ほう」
王様は今朝も上機嫌でシロップドリンクを召し上がった。
「ところで、明日の晩餐会だが、来賓にふるまうシロップの用意はできておるか?」
「はい、ぬかりなく」
ピエールさんは毎日のレシピとは別に、明日の晩餐会に向けての特別レシピもちゃんと考えていた。
いよいよ晩餐会が始まり、来賓がそろうとシロップドリンクが振舞われた。
マロングラッセシロップを使ったオ・レマロングラッセ、チョコレートシロップを使ったチョコミントソーダ、ストロベリーシロップを使ったホワイトストロベリーミルク、オレンジシロップを使ったオレンジモカなどなど。
ピエールさんご自慢のドリンクが次々に登場し、来賓たちは舌つづみを打った。
「王様、わたくしシロップを使った飲み物、大変おいしくいただきましたわ」
隣国から訪れていたお姫様が王様と談笑している。
ピエールさんはその様子を見て、ホッと胸をなでおろした。
もちろんレシピには自信があったけれど、お客さんの笑顔を見るまではやっぱり少し心配だったから。
晩餐会も無事終わり、日常が戻って来た。
しかし、ピエールさんはあいかわらずシロップドリンク作りに追われ一日があっという間に過ぎていく。
ある日の昼食後、アイスパッションフルーツラテを飲んでいた王様がピエールさんに話しかけた。
「実はこの間の晩餐会に来ていた隣国の姫と結婚することになった」
「それはまことにおめでとうございます」
「この結婚はピエールコック長が作ったシロップドリンクのおかげだ」
結婚はおめでたいことだが、それが自分の作ったシロップドリンクのおかげとはどういうことだろう。
「姫はシロップドリンクがいたく気に入り、国に帰ってから城のコックに作らせたそうだ。しかし、どうやっても晩餐会で飲んだような味にはならなかった。それで、姫はいいことを思いついた、つまり私と結婚すれば一生おいしいシロップドリンクが飲めるというわけだ」
「はあ、まことに光栄です」
そう言ったものの、そんな理由で結婚を決めてもいいのだろうか。
浮世離れした人たちの考えていることはよく分からないけれど、王様もとてもうれしそうだから終わり良ければすべて良しだ。
「ピエールコック長には特別に褒美を取らす」
「ははぁ、ありがたき幸せ」
ピエールさんはたくさんのご褒美をもらい、ますます王様のためにおいしいシロップドリンク作りに励むのだった。