クッキー星人
僕はクッキー星のクッキー星人。
僕たちは他の星に行っては空からクッキーをばらまいているんだ。
僕らの目的はその星の人たちを僕らのクッキーのとりこにしてしまうことだ。
そうすれば、僕たちはお金がたっぷり儲かるし、他の星の人たちは僕らのおいしいクッキーがいつでも食べられるようになるってわけ。
僕らのクッキーがおいしいのはその成分に秘密がある。
それは、クッキーの味の決め手となるエキスだ。
そのエキスは星から作られるのだ。
「いやあ、どんな味になるのか楽しみですね」
僕の部下がワクワクした表情で言った。
エキス抽出機を取り付けて蛇口をひねれば、その星のエキスを搾り取ることができる。
だから、クッキーの種類は星の数だけある。
「そうだな。まあ、どっちにしてもおいしいことには違いないさ」
僕は答えた。
好みは様々だが、今までの経験から同じ銀河系の星のエキスを好む傾向があることが分かっている。
今日は地球という星にクッキーをばらまく予定だ。
用意したのは、彗星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星クッキーだ。
「地球ではどのクッキーが人気でしょうね。僕は冥王星クッキーが一番おいしいと思うんですけどね」
部下は目を輝かせて言った。
「どうだろうな、金星か火星じゃないか?」
僕は答えた。
隣の星のエキスは比較的好まれるからだ。
「そういう隊長はどれが好みなんです?」
「好みで言えば、彗星クッキーかな」
「へえ、意外ですね」
僕らは地球の上空にたどり着くと、飛行艇の投下口からクッキーをばらまいた。
クッキーは汚れないようしっかりと包装されている。
「うわあ、空からクッキーが降って来たよ」
子供たちは大喜びだ。
「まあ、火星クッキー。あら、こっちは土星クッキーだわ」
今まで見たことのないクッキーに大人も興味深々だ。
地球は一瞬でお祭り騒ぎになった。
だけど、取り合いのケンカになることはない。
なぜなら、ばらまかれるクッキーの量がとんでもないからだ。
地球の人たち一人一人が、それこそ必死になって拾わないと、歩くことができなくなるほどの数だ。
だから、クッキーがまかれる日は会社も学校も休みになって、みんな総出で拾わなければならないのだ。
だけど、嫌がる人は誰一人いない。
なぜなら、僕らが作るクッキーはそれくらいおいしいからだ。
そして、一週間後に人気投票の結果報告がやってきた。
「隊長、今度こそは僕の勘が当たってますよ」
「さあ、どうかな」
僕らは結果が表示される画面をじっと見つめた。
画面に表示されたのは「彗星クッキー」だった。
「わぁ!隊長が好きなやつじゃないですか」
「いやぁ、だけど予想は外れたな」
「絶対、冥王星クッキーだと思ったんだけどなー」
そんなことを言いながらも、実際にはどれが選ばれてもおかしくないとも思っている。
星のエキス入りクッキーはそれぞれが他にはない特別なおいしさを持っているのだから。
ただ、すべての種類を作るのは大変だから、人気投票を行っているだけだ。
僕らは選ばれたクッキーを作るため、再び彗星に行くとエキス抽出機を取り付けた。
今度は前回よりも大量のエキスが必要だ。
大型タンカーにエキスを満タンに詰め込んで、クッキー工場へ運んだ。
工場ではエキスが到着するのを今か今かと待ち構えていた。
エキスが到着すると、すぐさまクッキー作りが始まった。
工場はまたたくまに何とも言えないおいしい香りで満たされ、クッキーを作っている工員たちは、こっそりつまみ食いをしたい衝動に駆られる。
おいしい香りは工場から漏れ出し、辺りは彗星クッキーの香りが漂っている。
すると、クッキー星の人々がワイワイと集まって来て、工場の扉をドンドン叩いた。
「おーい、俺たちにもそのクッキーを食べさせてくれよ!」
クッキー星の人々はクッキーが大好きだ。
だから、新しいクッキーが作られるたびに、同じような騒動が繰り返される。
しかし、新しいクッキーはまずそれを売り出す国に運ばれてしまう。
だから、クッキー星の人がそれを味わえるのは随分先のことになる。
だから、ダメだと分かっていても、クッキー好きの人たちがこうして押し寄せてくる。
そうは言っても、クッキー工場の人たちも自慢のクッキーを食べさせたくてうずうずしている。
そして、結局はこっそりみんなにふるまってしまうのだ。
すると、やっぱり自分たちも食べたくなって、みんなで仲良く彗星クッキーを食べるのだ。
だから、クッキー星の人はみんなしあわせ。
そして、クッキー星の人が作ったクッキーを食べる他の星の人たちも、クッキーを食べればみんなみんなしあわせになるんだ。