おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

白い世界

今は冬。

降り積もった雪は3メートルにもなって、外に出るのも一苦労。

除雪車が作った道を犬のスワンと一緒に散歩するのが私の日課

おばあちゃんが買ってくれた薄紫のふわふわコート。

大きなお花の刺繍がしてあるのも素敵だし、裾がスカートみたいに広がっているのがお気に入り。

外は寒いけれどいいお天気。

私はコートを羽織ると白い手袋をしてスワンと一緒にお散歩にでかけた。

雪の壁のすきまから青空が見える。

スワンは2歳のサモエド犬。

毛が真っ白だからスワンと名付けたけれど、すっかり大きくなってしまったから、白鳥とは全然似ていない。

スワンと一緒に歩いていくと、目の前にカモシカが現れた。

スワンのことをじっと見た後私のことを見た。

私はスワンのことを引っ張って雪の壁にぴったりとくっついた。

カモシカは私の方にゆっくりと近づいてきた。

スワンは小さくウーッと唸っている。

カモシカの鼻先が私の顔に近づいて、私は逃げることができずに思い切り目を閉じた。

しばらくじっとしていたから、カモシカは行ってしまっただろうかと私はうっすらと目を開けてみた。

するとカモシカはもういなくなっていた。

私はホッとしてスワンとの散歩の続きを始めようと前を向いて驚いた。

さっきまであったはずの雪の壁がすっかりなくなって、辺りはふわふわの雲に変わっていたのだ。

「うわあ、すごい!」

見渡す限り雲のじゅうたんが広がっていて、その終わりは見えない。

「行こう、スワン」

私が言うと、スワンは元気よく走り出した。

最初は私がついていけるくらいのスピードだったのに、こんな広い場所を走るのがよほどうれしかったのか、スワンが走るスピードはどんどん速くなった。

足がもつれて転んでしまった衝撃で私はひもを放してしまった。

 

「スワン!待ってー」

私は転んだまま叫んだけれど、スワンは止まらない。あっという間に見えない程遠くへ走って行ってしまった。

「スワンのバカ。どうして私を置いていっちゃうのよ」

私はしかたなく、とぼとぼと雲の上を歩き始めた。

するとさっきまでは気づかなかったけれど、遠くの方に白いお城が現れた。

ずいぶん歩いてやっとお城にたどりついた。

近づいてみるとそのお城は思っていたより随分小さかった。

コンコンとノックすると、扉が勝手に開いた。

ちょっぴり怖かったけれど、やっぱりお城の中がどうなっているのか見てみたくて、私は勇気を出して足を踏み入れた。

お城の壁はクリスタルみたいにピカピカで外からの光がたっぷり入ってくるから、中はとても明るい。

らせん階段を上って二階に上がるとまた扉があった。

私がそっと触れると扉は勝手に開いた。

中は大きな広間だった。

そして広間の中央には白いドレスを着た女の子が椅子に座り、その隣にはスワンそっくるに犬が寝そべっていた。

「スワン!」

私が呼び掛けてもスワンはぴくりとも動かない。

スワンに似ているけど、スワンじゃないのかな?だけど、どう見てもやっぱりスワンだ。

「スワンでしょ?」

私はもう一度呼んでみたけれどやっぱり動かない。

「あなたは何しに来たの?」

女の子が私に尋ねた。

「勝手に入ってごめんなさい。私の犬がどこかへ行ってしまって。あなたの横にいる犬にそっくりなんだけど・・・」

その犬がスワンである証拠はない。

でも、もしスワンならこのまま帰るわけにはいかない。

「これは私の飼っている犬よ」

「そうですか」

白いドレスの女の子はそう言うけれど、やっぱり私はあきらめきれない。

「用が済んだら出て行ってくれない?」

「はい・・・」

私が部屋を出て行こうとすると、白い犬の前足がピクッと動いたような気がした。

「やっぱりスワンだ!スワン」

私は白い犬に駆け寄ると抱きついた。

「ちょっと、勝手なことしないで」

白いドレスの女の子は立ち上がると、私と犬を離そうとした。

「いや!私はスワンと一緒に家に帰るんだから」

「あなた、もう帰っちゃうの」

「えっ?」

白いドレスの女の子は急に寂しそうに言った。

「せっかく友達になれると思ったのに」

さっきは用が済んだら出て行ってと言ったのに。

「どういうこと?」

「知らない・・・、帰るんならこのこを連れて行けばいいわ」

白いドレスの女の子はそんなことを言いだした。

「いいの?」

「いいから、早く行きなさいよ」

女の子はスワンにそっくりな犬を私の方によこした。

「スワン!」

女の子がなぜスワンを返してくれたのかわからないけれど、とにかく私はうれしくてスワンに抱きつくと頬ずりをした。

「じゃあね、またいつか会えたら一緒に遊びましょう」

「えっ?」

女の子がそう言うと、白いお城と白いドレスの女の子は一瞬で消えてしまった。

「えっ?」

驚いたのもつかの間、立っていた雲に突然穴が開き、私とスワンは雲から落ちた。

気がつくと私はスワンの上に寝っ転がっていた。

そこはさっきまで散歩していた雪の壁の道だった。

私はしばらくボーっとしていたけれど、スワンがクゥーンと鳴いたので、家に帰ろうと立ち上がった。

「またあの子に会えるかな?」私がつぶやくと、スワンは「ワン!」と元気に吠えたのだった。