おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

分かれ道を回り道

学校帰りに毎日通る道が、ある日突然分かれ道になった。

今朝までは確かに一本道だったのに。

僕はどっちの道を選べばいいのか分からない。

片方は道端に小さな花が咲いていてとても素敵な雰囲気だ。

もう片方は草ボーボーであまりいい気分にはなりそうもない。

だけど、問題は気分がいいとかそういうことじゃなくて、家にたどり着けるかどうかなんだ。

知らない道を歩くのはとても勇気がいる。

だって、その先がどこに通じているのか分からないんだから。

だけど、いつまでもそこに立っているわけにはいかない。

僕はもし間違えたのならまたここに戻ってくるだけだ。

そう考えて、花が咲いている方の道を選んで歩き始めたんだ。

少し歩くと、なんのことはない、すぐに知っている道に繋がっていたから、僕は難なく家に帰ることができたんだ。

おかしなことがあるもんだなぁ。

僕はそう思ったけれど、とにかく家に辿り着けたのだからとあまり難しく考えたりはしなかったんだ。

ところが、次の日もまた同じ場所で道が別れていた。

しかも今度は三つだ。

一つは花が咲いていて、もう一つは草ボーボーで、もう一つはお地蔵さんがいっぱい。

僕は昨日よりも随分悩んだ。

昨日は花が咲いている道を選んで家に帰ることができたけれど、果たして今日もそうだろうか。

だけど、まだ通ったことがない道よりも一度通ったことがある道の方が安心で、つい花の道を選びたくなる。

だけど、花の道が昨日と同じように家に帰る道に繋がっているなんて保証はない。 

僕は思い切ってお地蔵さんの道を選んだ。

昨日の花の道よりも長い時間歩いた。

道の両端にお地蔵さんがずっといるのだから、少し気味が悪かったけれど僕は頑張って歩いたんだ。

すると、なぜだかまた分かれ道になって、今度は花の道とサボテンの道が現れたんだ。

そこで僕は、これは花の道を選べと、そういう意味なんじゃないかと思ったんだ。

そういってももちろん何の保証もないのだけれど。

とにかく僕は花の道にかけてみた。

そして歩みを進めると、すぐに知っている道に繋がっていたんだ。

なんだ、やっぱりそうだったんだ。

なんて、安心したかといえば答えはNOだ。

だって、どこにも答えはないのだから。

一か八かなのだ。

そしてそのまた次の日も、同じ場所で道が分かれていた。

しかも今度は四つだ。

いつものように花の道と草の道、そして石垣の道とこけしの道だった。

昨日までの経験から、花の道を選ぶべきか随分悩んだ。

だけど、僕はどうにも石垣の道を歩いてみたくなって、その道を選んだんだ。

あまり広くない道の両側に僕の背丈くらいの高さの石垣がずっと並んでいる。

それはまるで南国の田舎に迷い込んだような感覚だった。

といっても、浮かれているわけにはいかない。

僕の目的は家に帰ることなのだから。

しばらく歩くと、また分かれ道になった。

今度は花の道とこけしの道だった。

昨日はここで花の道を選んで、その結果家に帰ることができた。

だけど、僕はあえてこけしの道を通ることにした。

もし家にたどりつけなかったなら、またここに帰ってくればいいのだから。

それに、実はせっかくだったらこけしの道を歩いてみたいという欲望が僕の中に湧いてきていた。

最初はビクビクしていた僕だけど、いまでは次はどんな道が現れるんだろうなんて期待していることに驚いた。

こけしは色んな種類があって、僕は左右をキョロキョロしながら歩いた。

こんな風にこけしを眺めるのは初めてで、僕は帰り道を歩いていることも一瞬忘れてしまったくらいだ。

だけど、そんな道も長くは続かず、しばらく行くと知っている道に戻ったのだった。

「もうおしまいか」

僕はそんなことを言ってしまうくらい、このおかしな道を楽しんでいた。

そして次の日もまた道は分かれていた。

 

今度は、花の道、草の道、トウモロコシの道、ちょうちんの道、かかしの道の五つだ。

僕はどの道にしようかなと、まるでメニューを選ぶようにワクワクしていたんだ。

だけど、そんな僕の目の前でとんでもないことが起きた。

ヒューッという音とともに大きな岩が空から落ちてきて、五つに分かれた道にドシン!ドシン!ドシン!と次々に落ちたのだった。

「ええっ、これじゃあ通れないよ!」

すべての道がふさがれてしまっては家に帰ることができない。

しかし、それだけでは終わらなかった。

大きな岩はゆっくりと動き出し、どんどん奥に向かって転がると、ついには風景をビリビリと突き破ったのだ。

僕が見ていた道の風景は消え去って、そこにいつもの帰り道が現れたんだ。

「ええーっ!」

僕は何が起こったのか全く分からなかったけれど、分かれ道がなくなってしまったことだけは確かだった。

いつの間にか分かれ道は僕にとってものすごく大事なものになっていた。

だから、分かれ道がもう現れないというのなら、僕は自分からいろんな道を探しに行くことにしたんだ。

今日も僕は新しい道を探して知らない街に来ています。

素敵な趣味を与えてくれた分かれ道に、僕はとても感謝しているんだ。