おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

日戻りカレンダー

一日の終わりにカレンダーめくるのが僕の日課だ。

えいっと勢いよく今日の分をちぎり、くしゃっと丸めてゴミ箱に捨てる。

これでやっと今日が終わり明日を迎えるという気持ちになるんだ。

次の日の朝、目が覚めた僕は何気なくカレンダーに目をやった。

すると、どうしてだか昨日の日付に戻っている。

あれ、おかしいな?

僕は夕べ昨日の分は確かにめくったはずだ。

念のためゴミ箱を覗いてみると、空っぽだ。

ええっ、戻ってる?

僕はこれは夢なんじゃないかと何度もカレンダーをぺらぺらとめくってみたけれど、どうやら本当らしい。

自分の記憶を疑いたくはないけれど、夕べはきっとたまたまめくるのを忘れたんだろう。

そんな風に思って僕はカレンダー一枚めくり、日付を確認すると、慎重にゴミ箱に捨てた。

そのまま学校に行った僕はカレンダーのことなどすっかり忘れていたんだ。

夜になりいつものようにカレンダーをめくろうとして、僕は今朝のことを思いだした。

いや、昨日はうっかりしていただけだ。

僕は気を取り直して今日の日付のカレンダーをめくるとゴミ箱に捨てた。

捨ててから、僕はもう一度日付を確認した。

たしかに明日の日付になっている。

僕は「よし!」と気合を入れるとスッキリした気持ちで眠りについた。

次の日の朝起きてすぐ、僕はカレンダーを見た。

すると、その日付はあろうことか一昨日のものに戻っている。

僕はベッドから飛び起きてゴミ箱を覗くとやっぱり空っぽだ。

僕はカレンダーを注意深く観察した。

夕べ確かに破り捨てたはずだから、もし仮に誰かが元通りにしようとしたならセロハンテープで張り付けてあるはずだ。

だけど、カレンダーは破れてもいないし、セロハンテープもくっついていない。

「ええ~っ」

僕は、わけが分からなかった。

だけど、カレンダーの日付が今日じゃないことはどうしても許せない。

だから、僕は一昨日と昨日の分をビリビリとめくりゴミ箱に捨てた。

「これで今日になった。もう、勘弁してよカレンダーくん」

僕は、とにかく学校に行かなければならないから、カレンダーにそうお願いをして出かけた。

今日もまた無事に一日が終わり、カレンダーをめくる時間がやってきた。

毎日の楽しみだったこの時間が、段々とゆううつなものに変わってきてしまったことがとても残念だ。

それも、めくったはずのカレンダーが元にもどってしまうという、人に相談しようものなら、僕の頭がおかしくなったと思われてしまうような理由で。

僕は今日もカレンダーをめくってねむりについた。

そして次の日の朝、カレンダーを見るとまた最初の日に戻っているのを発見したのだった。

次の日もその次の日も、朝になるとカレンダーは元の日付に戻っていた。

そのたびに僕はカレンダーをめくり続けたんだ。

僕は、こんなことがいつまで続くのだろうと思ったけれど、それに振り回される方が嫌で、とにかく今日の日付まで一気にカレンダーをめくったんだ。

確かにこれは困った状況だけど、僕だって一日中カレンダーのことばかり考えているわけじゃない。

平日は学校に行き、休日は友達と遊んだりどこかへ出かけたりするのだから。

僕は最初の頃こそなんとかやり過ごしていられたけれど、そんなことが一カ月も続くと、さすがにうんざりしてきたんだ。

今朝は30枚も一度にめくらなければならなかったし、この調子でいくと日に日にめくる枚数が増えることになるだろう。

そんなことを考えていた翌日の朝、僕はものすごい揺れを感じて目を覚ました。

てっきり地震だと思ってじっとしていた僕は、例のカレンダーがひどく揺れていることに気がついたんだ。

いや、正確にはカレンダーじゃなくてカレンダーが掛かっている柱が揺れているんだ。その柱は我が家の大黒柱だから、当然家全体が揺れている。
僕はベッドから飛び起きた。

恐ろしくてとにかく逃げ出そうとしたけれど、揺れが激しすぎてちゃんと歩くことができない。

大黒柱はますます激しく揺れながら、どうやら少しずつ上に移動しているようだ。

僕はベッドの柱にしがみつきながら、ただその様子を見守ることしかできない。

大黒柱の動きは激しさを増し、メリメリ、バキバキと音をたてながらどんどん上昇し、ついに完全に家から抜け出すと、その末端から炎を吹き出して空へと飛び立ったのだ。

家はバラバラに壊れ、僕は家の外に放り出された。

空を見上げると大黒柱はまるでロケットの様に宇宙を目指して飛んでいるのが見えた。

同じように外に放り出された父さんと母さんと一緒に空を見上げているとテレビのニュースが耳に飛び込んできた。 

「人類が初めて月に着陸してから今日でちょうど100年目の記念日です!」

そうだ、僕はあることを思いだした。

さっき、揺れている家の中で見たカレンダーの日付は確かに今日だった。