浮き輪レース
今日は浮き輪レースの日だ。
浮き輪レースは、浮き輪をはめて泳ぐ早さを競うのだ。
僕は、一年間ずっとこの日のために練習を重ねてきた。
レースで泳ぐ距離は1キロだけど、僕は毎日10キロ以上泳いだ。
だから、絶対に負けたくない。
だけど、浮き輪レースはただ練習すれば勝てるというものではない。
なぜかというと、浮き輪によって、そのスピードが変わってしまうからだ。
できれば早く泳げる浮き輪を選びたい。
だけど、どんな浮き輪になるかは、くじ引きで決められてしまう。
僕はくじ運があまりよくない。
実はそのせいで、過去のレースはいつも負けてしまったのだ。去年なんかは、すべての浮き輪の中で一番大きなものを引いてしまったせいで、僕のスピードはガタ落ちで、10位以内に入ることもできなかった。
だから、今年は、くじ引きの練習もした。
くじ引きの練習なんて意味がないとも思ったけれど、去年のことが悔しすぎて、どうしてもやらずにはいられなかった。
先端を赤く塗った棒を一本入れてくじを作り、毎日それを引いた。
引くときはもちろん本気100%で、箱の中を透視する勢いで、めちゃくちゃ気合を入れて引いた。
そのせいもあってか、最近では赤い棒を引けることが多くなった気がする。
そしていよいよ、くじ引きの時間がやってきた。
「えいっ!」
僕は、とにかく全ての感覚を研ぎ澄まし、指先だけに神経を集中させて、一本の棒を引いた。
棒の先に印刷されていた番号は51だった。
さて、51番はどんな浮き輪だろう?
僕は、ワクワク、ドキドキしながら、浮き輪が置いてある場所に向かった。
一番から始まって、51番に近づくにつれ、ドキドキがどんどん強くなる。
そしてついに51番の前にやって来た。
「嘘だろう~?」
なんと、僕の目の前にあるのは、去年と同じく、全ての中で一番大きな浮き輪だったのだ。
「どうしてだよ!」
僕は、あんなにくじ引きの練習をしたのに、どうしてこんな結果になってしまったのか、信じられなかった。
昨日までは確かにくじ運もよくなっていたはずなのに。
肝心の本番で最悪なものを引いてしまっては、まったく意味がない。
だけど、もう引いてしまったものは仕方ない。
水泳の練習は人一倍してきたのだ。
泳ぎでは誰にも負けない。
僕は、51番のバカでかい浮き輪をひっつかむと、プールへと向かった。
順番にしたがって、コースに並んだ。
みんなが、僕の浮き輪をじろじろと見ては、笑いをこらえている。
分かってる、僕が圧倒的に不利だってこと。
だけど、そんな状況で僕が一番のタイムを出したらどうだろう。
そしたら、今僕のことを笑っている人も、僕のことをすごいと思うだろう。
だから、僕は、あきらめないで頑張ると決めた。
いよいよ次が僕の番だ。
僕の前の人は腕と足首に小さな浮き輪を着けている。
僕は、思わず、いいなぁと心の中で呟いた。
もちろん口には出さなかったけれど。
あんな小さな浮き輪だったら、僕の優勝は間違いないはずだ。
だけど、僕は、負けるもんかと、自分に言い聞かせた。
さあ、いよいよ僕の番だ。
「よーい、パン!」
ピストルの音とともに、僕は水に飛び込んだ。
さあ、いくぞ!
僕は、必死で水をかき、足をすごいスピードでバタバタさせた。
まだ、となりの選手とはそんなに離れていない。
よし!この調子なら、いける!
僕は、夢中で水の中を進んだ。
しかし、50mを泳ぎ、ターンをしようとした瞬間、何かが僕のことをボーンと突き飛ばしたんだ。
「うわぁ!」
僕は水の中で声にならない声で叫んだ。
僕の体はあっという間に反対側まで飛ばされた、するとそこでも何かに突き飛ばされた。
その次からは同じことの繰り返しだった。
プールの端っこに行くたびに僕は飛ばされ、あっという間にみんなを追い越した。
そして、ものすごいスピードで1キロを泳ぎ切ってしまったのだ。
水から上がると、観客の大歓声に迎えられた。
僕は、大会新記録を出して、ついに念願の優勝を手に入れた。
トロフィーを手にした僕が、表彰台からプールを見ると、水の中から何かがひょいっと顔をのぞかせた。
それは、見覚えのあるもの、つまり、先端が赤く塗られた棒だったんだ。