おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

クイズくん

僕のクラスにはクイズくんと呼ばれている男の子がいる。

本当の名前は林くんだけど、みんなクイズくんと呼んでいる。

クイズくんは毎日大変だ。

何が大変かというと、クイズくんは一日のうちに何度も何度もクイズを思いついてしまうのだ。

それだけなら問題ないのだけれど、思いついたときすぐにクイズを出題しないと、クシャミとともにクイズの内容が消えてしまうのだ。

朝の会の最中、クイズくんが急に立ち上がった。

「どうしたの林くん」

先生が尋ねても、クイズくんは答えることができない。だけど、本当は先生も分かってる。クイズくんがクイズを思いついたんだって。

だからと言って、そのたびにクイズを出題していたら、いろいろと面倒なことになってしまうから、そういうわけにはいかないのだ。

クイズくんは、ハッ、ハッ、ハックションとクシャミをすると鼻をすすりながら、いすに座った。

こんなことが一日に何度も繰り返されるため、クイズくんのことを気の毒に思いながらも、先生もみんなもどうすることもできないのだ。

休み時間になり、みんなもクイズくんも、今か今かとクイズを思いつくのを待っていたけれど、そういう時に限って思いつかない。

体育の授業が始まった途端に、クイズくんが「あっ!」と声をあげた。みんなはまた、「あぁ・・・」と残念な気持ちでクイズくんのことを見つめた。だけど、みんなができることと言ったら、クシャミをして鼻水をすする姿を見守ることくらいしかない。

クシャミをしたクイズくんに、どんな問題だったのかと尋ねても、やっぱり、答えることはできない。

それなら、どうして林くんがクイズくんと呼ばれているのかという疑問がわくだろう。

最初の頃、クイズくんはそんなにたくさんのクイズを思いつくことはなかった。一日にせいぜい一、二回だったから、授業中だろうが、給食の時間だろうが、全校集会の最中だろうが、クイズを出題するのも大目に見てもらえた。

だけど、クイズくんが思いつく回数は、日を追うごとに増え続け、今では数えきれないくらいになってしまった。だから、それをいちいち出題することなど出来なくなってしまったんだ。

そしたら、クイズくんは、出したいものが出せなくなって、体のどこかがおかしくなってしまって、いつの頃からか、クシャミが出るようになってしまったんだ。

あまりにたくさんクシャミが出るせいで、クイズくんはまるで花粉症のようになって、一日中鼻をかまなければならなくなった。

そんな気の毒なクイズくんだけど、運よく休み時間にクイズを思いつくこともある。そんな時はクイズくんはもちろん、僕らもとてもうれしい気持ちになる。なにしろ、クイズくんの出すクイズはどれも奇抜でワクワクするようなものばかりだからだ。

ただ、クイズくんがクイズを思いつく回数はずっと増え続け、最近ではもうほとんど授業に集中できなくてクイズくんの成績は下がるいっぽうだ。

これにはクイズくん本人はもちろんのこと、クイズくんの両親も先生も頭を悩ませていた。どんなお医者さんに診てもらっても、治療法はおろか病名さえもつかないから、みんなほとほと困り果てていたんだ。

だけど、その日は突然やってきた。

クイズくんはいつものようにクイズを思いつき立ち上がった。しかし、今日はクシャミが出ない。その代わりにクイズくんは口を押えるとトイレに駆け込んだ。

心配してるみんなをよそに、クイズくんは、とても晴れやかな顔でトイレから帰って来ると「きっともう大丈夫だ」と言った。

その時はクイズくんが何をいっているのかわからかったけれど、僕らはすぐにその意味を理解することになった。 

というのも、その時を境にクイズくんは授業中に突然立ち上がることがなくなったのだ。いや、授業中だけでなく休み時間も放課後も、休日もクイズを思いつくことがなくなってしまったんだ。

これでクイズくんはみんなと同じように授業が受けられるようになったわけだけど、僕はまたクイズくんがクイズを思いつくようにならないかなぁ、なんて思ってしまうんだ。

なにしろクイズくんのクイズは本当にワクワクするんだから。