おはなしの森

短編・ショートショート・童話など、大人から子供向けまで、気ままに綴りたいと思います。

積み木クラブ

学校からの帰り道、積み木クラブと書いてある看板を見つけた。

僕は立ち止まると、少しの間その看板を眺めていた。

中から声が聞こえないかと耳をすませてみたけれど、何も聞こえない。

「誰もいないのかなぁ」

僕は中に聞こえるくらいの声で言ってみたけれど返事はない。

「しかたない、うちに帰ろうっと」

僕はそう言って家に帰った。

家につくと、おやつのドーナツを食べた。

テレビをつけて夕方のアニメを見ようとしたけれど、僕は積み木クラブのことが気になって、どうにも落ち着かない。

僕はテレビを消して家を飛び出した。

そして、積み木クラブのある場所についた。

でも、やっぱり中からは何も聞こえない。

僕は勇気を出して「誰かいませんか」と呼び掛けてみた。

だけど、返事はない。

せっかく来たのに、このまま帰るのはいやだ。

僕は、玄関のノブに手をかけた。

きっと鍵がかかっているとばかり思っていたのに、扉はあっけなく開いた。

「お、おじゃましまーす」

僕はついに玄関の中に入った。

中は僕の家と同じような普通の家だった。

だけど、誰もいない家に入るのはいけないことの様な気がして、早く誰かに会いたいと僕は思った。

そして、「すみません、積み木クラブに入りたいんですが」と言ってみた。

すると、中から「どうぞ、入ってください」というおばあさんのような声が聞こえた。

「はい!」

僕は、積み木クラブというものがどんなものなのか、どうしても見たくなってやってきたはずなのに、いざ、本当にそれがあるとなると、急に家に帰りたくなってきた。

でも、もう後戻りはできない。

僕は、靴を脱ぐと、家の中に入った。

廊下を歩いていくと、正面の部屋の扉に「積み木の部屋」と書いてあった。

僕は勇気を出してその扉を引っ張った。

すると、中からガラガラと沢山の積み木が飛び出してきた。

「わぁっ!!」

僕は驚いて後ろに飛びのいた。

だけど、部屋の中からは相変わらず物音ひとつしない。

僕は散らばった積み木を拾いながら、再び部屋に近づいた。

部屋の壁際にはいろいろな形の積み木が積み上げられ、様々なものが作られていた。

どうやら、僕が扉を開けたせいで、扉を背に積み上げられていた積み木が崩れてしまったらしい。

「ごめんなさい」

僕は、誰もいないのに、ついあやまってしまった。

部屋から飛び出した積み木を全て拾って、部屋の中に入れた。

そして扉を閉めた。

部屋の広さは6畳くらい。

僕の部屋とそんなに変わらない。

そんな狭い場所に、足の踏み場もないくらい沢山の積み木が積みあがっている。

積み木はとても精巧に積み上げられていて、崩してしまうのがもったいないくらいだ。

だけど、それを誰が作ったのかは分からない。

僕は、奥の部屋にさっきの声の主がいるのではないかと思った。

しかし、奥の部屋に通じる扉を開けて積み木の部屋から出ると、なぜか、家の裏に出てしまった。

「あれ?あれれ?」

僕は、慌てて今出てきた扉を開けて中に入った。

だけど、今度は家の表に出てしまった。

「あれ、おかしいな」

表の看板には、確かに積み木クラブと書いてある。

この家に間違いない。

僕は、もう一度扉を開いて中に入ってみた。 でも、今度も家の裏に出てしまった。

「どうして?」

僕はそのあと、何度も同じことを繰り返してみたけれど、もう二度とあの積み木の部屋に入る事は出来なかった。

外はすっかり暗くなってしまい、僕は、仕方なく諦めて家に帰ることにした。

「寒いなぁ」

僕は、ポケットに手を入れた。

すると、中には一つだけ小さな積み木が入っていたんだ。